ADHD_LABO

ADHDをよりよく生きる実験の日々

ちびっこハンコ、カリスマのんのんさん(祈祷師)のところにいく③最終回

前回の続きです。

 

がくりと頭(こうべ)をたれたまま

のんのんさんは、体勢を変えず、
「ヨウゴ〜、ナヅゴ〜がぁ?」

と低い声で静かにつぶやいた。

 

すかさず、母ナツコが

「とうちゃん!?とうちゃんなの!?」と叫ぶ。


そう、のんのんさんが呼びよせたのは

黄泉の国から訪れた、私にとっての祖父、

イワオだった。


しかし、ハンコってば肝心のこれからの場面を

あまり覚えていないのだ。

さすがハンコ。

 

ある思考に囚われてしまった為に。

 

断片的に覚えていることを書いて行こうと思う。

 

ヨウコおばちゃん、ナツコ、イワオが何か会話しているようだった。

黄泉の国、現世に住まう者たちの三者会談だ。

 

ナツコがイワオに向かって、
かあちゃんが、かおちゃんが」
泣き叫んでいた場面もあり、、

母親への思いをぶつける場面もあった。

ナツコもまた、母親に何か抱えていたのであろう。

 

ほどなくして、イワオの矛先が

とうとうハンコに向かった。


いよいよだ。

 

しかし、イワオがハンコに向けた言葉は

なんとも抽象的なものだった。
「いいがぁ、ハンゴ、こどもらすぐいぎろよ〜、

じいちゃんはちゃんとみでらっだからな。

これがらもみでるがらな

(子どもらしく、朗らかにいきるように、

じいちゃんはずっと、しっかりとみていましたよ、

これからもずっと」。

 

もっと怒られるかと思っていた。

 

いや、何かしらハンコをこれまでの行いを改めるような

言葉はあったかもしれないが、これしか覚えていないのだ。

 

なぜならイワオの、「全部みていた」

という言葉にハンコはひどく動揺し怯えていた。

 

「全て…見ていただと!?」

 

小3のハンコは、秘め事を持っていた。

 

正月にハンコの父方の親戚の家に遊びにいった時のことだ。

中学生のいとこの兄ちゃん読んでいた、

それはヤングマガジンあたりだったろうか。

グラビアアイドルの際どい写真に
心臓をハカハカ(息切れや動悸で胸が苦しいさま。はあはあ。 )とさせ、

高揚めいた感情を抱いていたこと。

しかもそればかりではなく、

その写真をしっかと焼き付け、

夜寝る前に思い出し、悶々としていた。

 

それが性の目覚めだとも知らずに。

 

しかし、ハンコの本能的な所で

「これは公言してはいけないやつ。」

と小3ながらにも認識していたので

自分のだけの秘め事ととして、

自分の感情の奥底にしまい

静かに育ていた。


そんな事が、ナツコ達に告げられたらどんなことになろうか。

 

祈祷師に行く案件がまた増えてしまう。

しかも、その時、なんと言って相談するのだろうか。
公開処刑にも程がある。

 

ハンコは青ざめ、とにかく気が気がではなかった。  

「じいちゃん、あのことはナツコには絶対言わないで。

もう何でもします。言うことききます。

とにかく、とにかくお願いします。」

 

さっきまで他人事のように、ぼんやりと三者会談を眺めていたが、

熱心に手を合わせて目をつむり祈りを捧げはじめていた。

 

そんなハンコの姿をみて、ナツコがイワオに言った。

「あんや、父ちゃんみでげで。

ハンコ、こっだに拝んでら〜。こっだに拝んでだどごみだごねぇ。

やっぱす父ちゃんの言うごとはぎぐんだね〜

(お父さん、見て、ハンコ、こんなに拝んでる。

こんなに熱心に拝んでいる姿、見たことないわ」」と。

 

違う違う。そうじゃ、そうじゃない。(鈴木 雅之)

ハンコはただただ、告げ口されることなく

時がただ過ぎる事を祈っていただけだ。

 

しかし、何が功を奏するかわからないものだ。

 

その姿に皆が感心し、安心したのだ。

今回ばかりは違うと。

 

 ハンコがトランス状態で熱心に祈っている間

事のすべては終わっていた。

 

のんのんさんの座布団の周りには、

新たな焦げ跡、シミが増えていた。

のんのんさんがまた暴れたのだろうか。

 

イワオも黄泉の国に、とっくにかえっていた。

それぞれの思いを抱えて、霊界の旅は終わった。

 

部屋のはえらく満足気なすっきりとした表情の

ヨウコおばちゃんとナツコ。

イワオを黄泉の国に帰す際、

のんのんさんが暴れたであろう

その姿に怯える弟。

別の意味で無事に終わった事に安心するハンコ。

 

その後しばし、のんのんさんと談笑して我々は帰路についた。

 

帰りのタクシーでナツコは、はしゃいでいた。

「やっぱす、違うもんだね〜。ハンコよぐなるに違いねぇ。
しっがす、のんのんさんの金歯、立派だったねぇ。

やっぱすもうがってんだえか?(儲かっているのかな。)」
と下世話にものんのんさんの懐事情を探っていた。 


目の付け所が一緒だった。

前回述べたように、この親にしてこの子ありだ。

DNAの精度に一寸の狂いはない。

 

その後、

のんのんさんの祈りは

ハンコに効いたかどうかは言わずもがなである。

 ナツコがこれ以降、

のんのんさんの所にいくことは一切なっかた。

 

時が経ち、ハンコは成人し、

男に金を騙し取られるわ、精神病棟に入院するわ、

30万をはたいて啓発セミナーに参加するわ

なかなかの仕上がりの大人になった。

 

いや、のんのんさんはしっかりそれを見抜いていて、

これはワシの手におえんとおもったのかもしれない。

 

しかし、今、ハンコは幸せで

やっと穏やかな生活をしているから

祈祷が今効いているのかもしれない。

だいぶ時間差があったが。

 

そう思い方は自由だ。意味づけは自分次第。

 

そして、ハンコはのんのんさんの生き方を思う。

あの時代は、恋愛結婚は少なかったであろう。
親が決めてきた結婚相手と契りを交わし

子を生み、育て、田畑を耕し、
土地に住まう精霊たちと生き

 

時には祈祷師として、
他者の普遍的な悩みを聴き、
霊界を行き来し、
神や仏と交信し、
悩みを解決していくのだ。

 

そして、その土地で生を終え、
土に還っていく。


なんて美しい生き方なんだろうか。

 

ハンコが若い頃そんな生き方、

まっぴらごめんと思っていたが、

そんな生き方に想いを馳せ、

美しさを見出すことができるようになった。

歳を重ねるのも悪くない。

 

そして、今頃の時期、
吹き抜ける風になびく稲の葉と、

心象風景を重ねながら

思いを馳せる。

 

そうそれは、

東北屈指と呼ばれたのんのんさんを訪れたのは

ちょうど今時期だったから。

 

 

のんのんさん、ハンコは今幸せに暮らしていますよ。

「 ありがとがんす 」

 

 

長文、読んでくださいましてありがとうございました。

お疲れではないでしょうか。

次回までゆっくりお休みくださいませ。

 

 

次回は、~怒涛の社会人編~にもどりまーす!

見てください!聞いてください!
楽しんで下さい!押無 判子(オセナイ ハンコ)でございます!

そんじゃまた!